🐑✨ やなせたかし『チリンの鈴』── “ほんとうの強さ”を問いかける物語

“ほんとうの強さ”をめぐる、静かで深い物語

こんにちは。
やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックの山口裕礼です。

今日は、長年ずっと心に残っている絵本
やなせたかし『チリンの鈴』
について書いてみたいと思います。

アンパンマンの作者として知られるやなせたかしさんが描いたこの作品は、
「子ども向けの絵本」では収まらない、
大人の心に深く突き刺さる一冊です。

🐑 悲劇から始まる物語──“母の死”がチリンを変えた

草原で穏やかに暮らしていた子羊・チリン。
首には、母羊が与えてくれた“鈴”が付いていました。

ある日。
平和な世界が一瞬で壊れます。

オオカミのウォウによって、母が殺されてしまうのです。

泣き叫ぶチリン。
守ってくれる存在を失った幼い子が抱える
どうしようもない喪失感と怒り。

その痛みが、チリンをひとつの決意へ導きます。

「ぼくは強くなる。あのオオカミのように。」

憎むべき敵であるはずのウォウに、
自ら弟子入りを願いに行くという展開は、
絵本らしからぬ“圧倒的な深さ”を持っています。

🐺 けものになるまで鍛えられた日々

強さを手に入れた代わりに失ったもの

ウォウの修行は過酷でした。
寒さ、孤独、飢え、痛み。

子羊だったチリンは、
泣きながら、倒れながら、
それでも「強くなる」ために前に進みます。

時間が経つにつれ、チリンは
立派な角を持ち、鋭い目をした“けだもの”へと変貌します。

しかしその途中で、
見失ってしまったものがありました。

それは、かつて自分の中にあった
優しさ・弱さ・ぬくもり

ウォウは言います。

「弱いままでは、守りたいものも守れない。」

正しい言葉。
でも、どこか危うい。
強さを求める過程で、人は簡単に
自分の心を犠牲にしてしまうからです。

🌓 クライマックス──復讐を果たした夜に訪れた“本当の気づき”

強くなったチリンは、
ある夜ウォウと共に、羊たちの牧場へ向かいます。

かつての自分と同じように
何も知らない羊たちを襲うために。

その瞬間チリンは気づきます。

「ぼくは…あのときのウォウと同じ存在になっている。」

怒りに突き動かされ、
復讐のために強さを身につけ、
憎むべきその相手と同じ“けもの”になっていた自分。

そしてチリンは、
長年憧れ、親のように慕ってきたウォウを
ついに倒します。

復讐は果たした。
目的は達成された。

でもその先には
誰もいない草原と、自分の鈴の音だけが残っている。

チリンはもう
羊の群れにも戻れません。
ウォウにもなれない。

ただひとり、広い世界で
「強さとは何か」
問い続ける存在になってしまったのです。

🔔 この絵本が私たちに投げかける“5つの問い”

『チリンの鈴』は、読むたびに胸が締め付けられます。
そこには、医師として日々患者さんと向き合う私たちにも
深い示唆があります。

1️⃣ 痛みや悲しみは、人を強くすることがある

つらい経験は、人に力を与えます。
でも、その力が「破壊」に向かうか、「守る」に向かうかは別の問題。

2️⃣ “強さ”とは何か?

動じない力なのか。
戦う力なのか。
耐える力なのか。

チリンの結末は、
強さの定義を問い直させます。

3️⃣ 自分が“誰になるか”は選べる

ウォウに似ていく自分に気づいたチリン。
私たちも環境に染まり、怒りに染まり、
知らぬまに“別の自分”になってしまうことがあります。

4️⃣ 復讐の先にあるのは、空虚

怒りは一時の燃料。
達成した瞬間、その火は消える。
そこに残るのは孤独か、再生か。

5️⃣ 優しさを失わない強さを持てるか

やなせたかしさんが語り続けた“正義”とは、
相手を倒す強さではなく
「困っている人のために動ける優しさ」です。

アンパンマンの根底にある考え方ですね。

🌱 医療の現場でも“チリンの問い”は続いている

診察室には、
たくさんの痛み、怒り、悲しみがやってきます。

ときに人は、
弱さを隠すために強く見せたり、
怒りで自分を守ったりします。

でも本当はみんな、
「優しさを忘れたくない」
そう願っていると私は思っています。

だからこそ医療者として、
患者さんの「鈴の音」を聴き取れる存在でありたい。

過酷な世界で強さを求めながらも、
本当の自分を忘れたくない人たちに
そっと寄り添える医師でありたい。

そんな気持ちを、
この絵本はまた思い出させてくれます。

🔔 最後に

あなたの“鈴の音”は、今どんな響きですか?

強くなろうとするとき、
人はしばしば大事なものを置き去りにしてしまいます。

怒りに飲まれる前に、
孤独に沈む前に、
チリンの首で鳴り続けた“鈴”の音を
思い出してみてください。

それは、あなたの優しさの原点です。

投稿者プロフィール

院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
からだ整えラボ
① 医学=呼吸器・アレルギー
② 生活=腸・温活・食・睡眠・肌
③ 幸福=働き方・環境・園芸
“病気を診るだけでなく、人をまるごと診たい”
——その思いを胸に、学びを続けています。
医学的根拠 × 生活習慣 × 心の豊かさ
三位一体の医療をめざしています。
資格:
<医学・医療>医学博士、日本呼吸器学会認定呼吸器専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医、日本喘息学会認定喘息専門医、日本内科学会認定内科医、日本喘息学会認定吸入療法エキスパート
<予防医学・代替医療・環境>
カラダ取説®マスター・ジェネラル ← NEW✨
環境省 環境人材認定事業 日本環境管理協会認定環境管理士、漢方コーディネーター、内面美容医学財団公認ファスティングカウンセラー、日本セルフメンテナンス協会認定腸内環境管理士、腸内環境解析士、日本温活協会認定温活士、薬膳調整師、管理健康栄養インストラクター、食育健康アドバイザー、日本フェムテックマイスター協会公認フェムテックマイスター®上級、公認妊活マイスター®Basic、日本スキンケア協会認定スキンケアアドバイザー、メンタル士心理カウンセラー、アーユルヴェーダアドバイザー、快眠セラピスト、安眠インストラクター
<文化・生活>
日本園芸協会認定ローズ・コンシェルジュ、ローズソムリエ®(バラ資格)
<受賞歴>
第74回日本アレルギー学会学術大会「働き方改革推進奨励賞」受賞