谷川俊太郎さんの詩に学ぶ:老いと生きる意味を見つめて
やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックの患者の皆さまへ。
加齢や病気がもたらす体や心の変化に戸惑い、不安を感じることがあるかもしれません。
しかし、詩人・谷川俊太郎さんは、年を重ねる中で得た経験や気づきを詩に昇華し、私たちに新しい視点を示してくれます。
谷川さんが92歳を迎えた際に綴られた詩「これ」は、その一例です。
また、彼がブレイディみかこさんとの往復書簡『その世とこの世』で見せた言葉は、生きること、老いること、そして死についての深い洞察を私たちに与えてくれます。
詩「これ」全文
これを身につけるのは
九十年ぶりだから
違和感があるかと思ったら
かえってそこはかとない
懐かしさが蘇ったのは意外だった
老いを受け入れる
谷川俊太郎さんは、自らの老いを正直に、そしてユーモアを交えて描き出しています。
この詩「これ」では、おむつを身につけるという一見羞恥心を感じる状況を、90年前の赤ん坊としての記憶と結びつけ、「懐かしさ」として受け入れています。
老いを過ごすプロセスは、赤ん坊の頃に戻るかのような感覚があると語り、それをあえて詩に表現することで、年を重ねることの本質を示しています。
これは、老いが単なる衰えではなく、生命の循環の一部であることを示唆しています。
生と死をつなぐ「その世」
谷川俊太郎さんとコラムニスト・ブレイディみかこさんが往復書簡で重ねた言葉の中で、谷川さんは「その世」という新しい概念を描きました。
〈この世とあの世のあわいに/その世はある〉という詩の一節は、加齢とともに死が身近になる中で、その過程をも「生きる」ことの一部として捉えていることを示しています。
彼は、「若い頃の明快なこの世」から、あの世に近づきつつある自分を受け入れ、その曖昧な境界を「その世」として感じ取っています。
自分らしさとしての老い
谷川さんが詩を通じて語る「老い」は、自分の経験や感情を素直に認め、受け止めることを象徴しています。
「これ」や他の作品からは、老いを自分らしさとして生きる姿勢が感じられます。
彼が語る「一周回って子どもに近づいている」という言葉は、肉体の衰えに対する苛立ちや戸惑いを持ちながらも、その感覚を言語化することで自分らしさを守ろうとする姿勢を示しています。
これこそが、他者に配慮を持ちつつも自分自身を大切にする「自分らしく生きる」ことです。
患者の皆さまへのメッセージ
年を重ね、体の変化や新たな困難に直面する中で、「自分らしさ」を見つめることが大切です。
谷川俊太郎さんの詩は、老いに対する恐れを少し和らげ、人生のあらゆる瞬間に意味を見出す手助けとなるかもしれません。
老いを拒むのではなく、その中にある懐かしさや自己発見の機会を受け入れてみてください。
どのような状況でも、患者の皆さまが自分らしさを持ち続け、周囲とのつながりを大切にしながら豊かな人生を送られることを願っています。
やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックは、患者の皆さまを支え、老いを含めた人生の全てをより良いものにするために寄り添ってまいります。
谷川俊太郎さんの詩が、皆さまの心に穏やかさと勇気を届けてくれますように。
やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニック 山口裕礼
投稿者プロフィール
- 2017年1月、希望が丘(神奈川県横浜市)にて、やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックを開院しました。
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