🌿学会帰りに訪れた「尹家(ユンケ)」——食のすべてが薬膳であるという体験

こんにちは😊
やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニック 院長の山口裕礼です。
学会の帰り、薬剤師の佐々木とともに、長年行ってみたかった銀座の「韓国宮廷薬膳料理 尹家(ユンケ)」を訪れました。
静かな通りに灯る控えめな看板。中に入ると、そこはまるで「食の薬局」のような空間でした。
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🥢宮廷薬膳——王が口にした「未病の料理」
尹家のメニューは、韓国宮廷料理の流れを汲む薬膳。
食材一つひとつに意味があり、五味五色の調和を重んじます。

🥣かぼちゃと小豆のポタージュ——優しさで始まる一夜
最初の一皿は「かぼちゃと小豆のスープ」。
南瓜の自然な甘みと、ほんのり漂う小豆の渋み。
この組み合わせは中医学的に「脾胃(ひい)の調整」を意味します。
胃腸を温め、消化を整え、これからの料理を受け入れる準備をする一皿。
“食べる前に心を鎮める”という宮廷の作法が息づいています。


🌿山菜ナムル──大地の息を感じる前菜
次にに供されたのは、わらび・ぜんまい・ほうれん草の山菜ナムル。
塩とごま油だけの素朴な味わいの中に、大地の息づかいが感じられます。
韓方では山菜は「気を巡らせ、春の毒を出す」食材。
冬に溜めた疲れをやさしく流し、肝の働きを整えます。
ほんの一口なのに、体が軽くなるような感覚。
まさに“自然がつくった薬膳”のはじまりでした。

🥢九節板(クジョルパン)──包むことで調和を生む、宮廷の美学
金色の円形の器に八つの具材が美しく並び、
中央には一枚一枚ていねいに焼かれた小麦粉の皮(ミルジョンビョン)が置かれています。
この料理「九節板(クジョルパン)」は、朝鮮王朝時代の宮廷で客人をもてなすために供された伝統料理。
八つの具材にはそれぞれ色と意味があり、
五行(木・火・土・金・水)と陰陽のバランスを表しています。
野菜、肉、海藻などをこの薄い皮で包み、自分の手で調和をつくる。
つまり、“包む”という行為そのものが食の哲学なのです。
味の主張は控えめで、ひと口ごとに素材の香りと色が調和していく。
それはまるで、心を包み、調和を取り戻す食の儀式。
華やかさの中に、深い静けさを感じる一皿でした。



🕊黒あわびの韓方湯──“食べる瞑想”のような一椀
テーブルに運ばれたのは、木の箱に並んだ薬膳素材たち。
高麗人参、霊芝、ナツメ、栗、冬虫夏草、椎茸、黄白の茸…。
それぞれが香りを放ち、まるで森の息吹をそのまま閉じ込めたようでした。
この素材をじっくりと煮込んだのが、次に供された黒あわびの韓方湯。
翡翠色の青磁の器に黄金色のスープ、
湯気とともに立ち上る香りは、ただの料理ではなくひとつの治癒でした。
あわびの滋味は腎を養い、
ナツメは血を補い、
高麗人参は気を整える。
つまりこの椀は、“気・血・水”のバランスを一椀で整える薬膳なのです。
ひと口ふくむと、静かな力が身体の奥に染み込んでいくよう。
薬臭さは一切なく、むしろ柔らかで上品な旨味だけが残る。
それはまさに——食べる瞑想。
五感を通じて、内なる調和を取り戻す瞬間でした。



🕊参鶏湯(サムゲタン)──生命を整える、静かな再生の一
最後に供されたのは、韓方料理の真髄ともいえる参鶏湯(サムゲタン)。
澄んだ白濁のスープに、ほろりとほどける鶏の身。
まるで身体そのものを修復していくような優しい香りが立ちのぼります。
周りには、キムチ、煮豚、ナムルなどの副菜(パンチャン)が静かに並びます。
それぞれが五味五色を司り、
酸味・辛味・甘味・塩味・旨味が、主菜のサムゲタンを引き立てる。
まるで、ひとつの身体を構成する臓器のように調和しているのです。
韓方の思想では、サムゲタンは「気を補い、血を巡らせ、水を整える」料理。
それを支える副菜たちが、陰陽のバランスを微細に整える。
——つまりこの膳全体が、医と食の完全な調和を体現していました。
静かな器の中に生命の循環を感じ、
ひと匙ごとに心身が深くほどけていく。
それはまさに、“食べる瞑想”の時間でした。

🫖百歳酒とともに味わう「医食同源」
この日のペアリングには、伝統薬酒「百歳酒(ベクセジュ)」を。
高麗人参・シナモン・ウコギなどを漬け込んだ米酒で、
白ワインのように軽やかな飲み口ながら、身体の芯が温まる不思議な感覚をもたらします。
“百歳まで健康に生きる”という名の通り、まさに韓方の象徴的な一杯です。



🍡薬膳菓子——身体を鎮める“食後の処方”
食後には、よもぎ餅・柿とくるみの菓子・えごまの飴。
それぞれ「解毒」「補血」「潤い」をテーマにしており、
医食同源の締めくくりとして完璧な構成です。

最後の一杯は温かな薬茶。
“一日の終わりに、からだと対話する時間”を与えてくれました☕️


✨尹美月(ユン・ミウォル)先生の哲学
この料理を監修するのは、韓国伝統食品名人・第66号に認定された尹美月先生。
彼女は“食を通じて人の心身を癒す”という信念のもと、
朝鮮王朝の宮廷料理を再現しながらも、現代の科学的な栄養理論と融合させています。

🏙帰り道、灯る歌舞伎座の夜
外に出ると、歌舞伎座の明かりが夜空に美しく映えていました。
伝統と文化の街・銀座で、
「医療」「食」「芸術」が自然に交わる——
そんな一夜に、深い感謝を覚えました。

💬食べながら感じたこと
韓国の薬膳は「病を治す」よりも「未病を整える」思想。
そこには医学と料理の境界がなく、すべてが“人の生き方”に直結しています。
私たち医療者が日々伝えている生活習慣・栄養・睡眠・ストレス管理のすべてが、ここに凝縮されていました。
学会帰りの夜に、またひとつ“医の原点”を思い出した時間でした。
🌸まとめ
尹家(ユンケ)は、単なるレストランではなく——
身体と心を再構築する、食の薬局(クスリや)でした。
健康とは、薬ではなく「日々の選択」でつくられる。
そんな当院の理念「からだを整える医療」とも深く通じる体験です。
やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニック 山口裕礼
投稿者プロフィール

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からだ整えラボ
資格:
<医学・医療>医学博士、日本呼吸器学会認定呼吸器専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医、日本喘息学会認定喘息専門医、日本内科学会認定内科医、日本喘息学会認定吸入療法エキスパート
<予防医学・代替医療・環境>
環境省 環境人材認定事業 日本環境管理協会認定環境管理士、漢方コーディネーター、内面美容医学財団公認ファスティングカウンセラー、日本セルフメンテナンス協会認定腸内環境管理士、腸内環境解析士、日本温活協会認定温活士、薬膳調整師、管理健康栄養インストラクター、食育健康アドバイザー、日本フェムテックマイスター協会公認フェムテックマイスター®上級、公認妊活マイスター®Basic、日本スキンケア協会認定スキンケアアドバイザー、メンタル士心理カウンセラー、アーユルヴェーダアドバイザー、快眠セラピスト、安眠インストラクター
<文化・生活>
日本園芸協会認定ローズ・コンシェルジュ、ローズソムリエ®(バラ資格)
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