医師からの電話が持つ「悪い知らせ」のイメージ
先日、70代後半のある患者さんとお話をする機会がありました。
いつも定期的な採血検査を行っている方で、今回も年末前の検査を行い、次回は年明けにお会いする予定です。
通常、このような場合、私は年明けの診察時に採血結果をお伝えするのですが、もし気になる点があれば検査結果を先に確認して、お電話でご連絡することがあります。
ところが、その患者さんははっきりと「絶対に電話はかけないでくれ」とおっしゃいました。
理由をお尋ねすると、「医者からの電話はいい話を聞いたことがない」というのです。
「状態が急激に悪化した」「がんが見つかった」「余命に関わる深刻なこと」…そんなイメージが積み重なった結果、医療者からの連絡はほぼ “悪い知らせ” として受け止められているようでした。
悪い知らせの刷り込みと不安の蓄積
振り返れば、その患者さんだけでなく、多くの方にとって医療者からの緊急連絡はどうしても不安要素が大きいものです。
世間のイメージや周囲からの話が重なり、「医者から突然電話がある=悪いこと」となってしまうのも無理のないことかもしれません。
最終的に、その患者さんとは「どのような検査結果であろうと、電話はしない」という約束を交わしました。
本来、深刻な異常があればお知らせすべきかもしれませんが、今回は特に異常もなく、年明けに直接お会いして結果を伝えることにしました。
患者さんの不安に寄り添うコミュニケーション
医療者としては「早くお知らせして安心してほしい」「何かあるなら迅速に対処したい」という思いがあります。
しかし、患者さんの心中を考えると、それが必ずしもプラスに働くとは限りません。
今回の出来事を通じて、患者さんごとに異なる不安や価値観、生活背景に目を向ける重要性を改めて実感しました。
新年に向けて考える「善意」のかたち
新しい年を迎えるにあたり、患者さん一人ひとりの心情にさらに寄り添い、信頼を築くためのより良いコミュニケーション方法を見つけていきたいと考えています。
患者さんによっては「迅速な連絡」が必ずしも最善の対応とは限りません。
それぞれの患者さんが抱える不安や期待を丁寧に汲み取った対応が重要です。
年末年始の慌ただしい日々が続きますが、どうぞご自愛いただき、穏やかな時間をお過ごしください。
やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニック
山口 裕礼