クリニックだより

「感情を超えた声の力」─別れを前に人ができること

最期の別れに込められた深い思い

NHK大河ドラマ「光る君へ」の撮影最終日では、主人公まひろが死にゆく道長に寄り添い、物語を読み聞かせる感動的なシーンが収録されました。

道長の妻・倫子に懇願され、道長のもとに駆け付けたまひろは、見えなくなった道長の手を握り、「戦のない泰平の世を守られました」と語りかけます。

この場面には、別れの悲しみとともに、支える者の覚悟や声に込められた力強さが象徴的に描かれていました。

「声だけは元気に」──不安を与えない努力

道長の死が迫る中で、まひろは涙を流しながらも「声だけは元気に」と語りかけ続けます。

この姿勢には、支える側がどれだけ相手を安心させたいと願うかが表れています。

病気や老いと向き合う中で、患者さんのそばにいるご家族や友人も、時にまひろと同じように自分の感情を抑えつつ、明るく振る舞おうと努めることがあるでしょう。

もちろん感情を隠すことがすべてではありません。

しかし、まひろのように「声」を使って支えようとする行動は、相手に安心感を与える重要な手段の一つです。

穏やかな声や優しい言葉が、病に向き合う人にどれほど力を与えるか、私たち医療者も日々感じています。

感情の裏にある「伝えたい想い」

このシーンでは、まひろの複雑な感情も描かれています。

「悲しい」「寂しい」といった感情が心の奥にありながらも、それをそのまま言葉にせず、時に厳しい言葉や憎まれ口を交えながら、道長を励まそうとする姿が印象的です。

これは、まひろが道長をただ見送るのではなく、少しでも生きる意志を引き出そうとしている証です。

私たちも、患者さんや家族との会話の中で、直接的には言えない思いを抱えることがあるでしょう。

そんな時、「自分の本音」と「相手に伝えたいこと」のバランスを取りながら、心を込めて向き合う姿勢が大切だと感じます。

「愛する人のためにできること」

死にゆく道長に対し、まひろが最期まで物語を語り続けたように、愛する人を支えるためにできることはさまざまです。

それは特別な行動ではなく、声をかける、手を握る、一緒に過ごすといった、シンプルな行為で十分です。

これらは相手の孤独を和らげ、心の安らぎをもたらす力を持っています。

患者さんにとって、最期まで誰かと繋がっていることや、自分の存在が認められていることは何よりの支えになります。

家族や医療者が寄り添い、小さな行動で心をつなぎ続けることが、人生の最期に大きな意味をもたらします。

私たちが学ぶべき「声の力」

このドラマが教えてくれるのは、言葉や声が持つ癒しの力です。

病や老いに向き合う患者さんにとって、声に込められた温かさは大きな力になります。

感情が揺れる場面でも、「声」を通じて相手を支えることを意識してみてください。

あなたの声や行動が、大切な人にとって安心と希望の灯火となりますように。

私たち医療者も、患者さんとその家族に寄り添い、少しでも穏やかな日々をお届けできるよう努めてまいります。

やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニック 山口裕礼


投稿者プロフィール

院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
2017年1月、希望が丘(神奈川県横浜市)にて、やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックを開院しました。