都内においての講演会のまとめ
喘息治療はトリプル製剤(ICS/LAMA/LABA:エナジア、テリルジ―)が使用できるようになり、大きく変化している。
今までICS/LABA製剤が主体での喘息コントロールが主役であった。
今回の講演会では、初診時からトリプル製剤を使用していく時代の流れを感じたが、疑問もある。
以下に講演会の内容をまとめてみた。
一番最後に「本当にそれでよいのか?」私からの見解も記載してるので、お時間あれば読んでいただきたい。
喘息治療におけるLAMAの役割
1.抗収縮作用=気管支拡張
2.抗炎症作用=増悪予防
3.抗リモデリング作用=難治化予防
4.喀痰・咳嗽抑制作用
1.抗収縮作用=気管支拡張
喘息ガイドライン2019においてstep2からLAMAは適応となる
どのような症例にLAMAを追加するか?
【・年齢 ・性別 ・BMI ・罹病機関 ・発症年齢 ・閉塞性障害の程度や可逆性】
上記項目と関係なく効果は期待できる。
すなわち、喘息のコントロールが悪ければLAMAを使用する価値はある。
さらに、IgEや末梢血好酸球で規定されるT2 statusとは無関係である。
2.抗炎症作用=増悪予防
抗炎症作用はICSが一番強い。
LAMAにおける抗炎症作用においてヒトに関するデータは少ない。
しかし可能性として何らかの気道炎症を抑制させる要素があるのではないかと考えられる。
3.抗リモデリング作用=難治化予防
喘息治療におけるICS
・いつはじめるか?→できるだけ早く(早期介入)
・いつまで続けるか?→できるだけ長く
喘息治療におけるLABA/LAMA
・いつからはじめるか、いつまで続けるかに関しては結論がでていない。
気道収縮によって気道上皮下の基底膜の肥厚の原因となる
→ 抗収縮作用も早期に重要である
そのような意味合いにてLAMAは重要な役割を持つ
4.喀痰・咳嗽抑制作用
ICS/LABAでも喘息コントロールが出来ない症例が存在する
多くは咳と喀痰症状
海外データ(142名)によると喀痰が毎日または時々あることが52.1%で認められる。
すなわち、喀痰をとることは重要である。
LAMAは気道分泌抑制作用があるため有用と考える。
さらにLAMAは咳反射にも効果があるのではないかというデータもある。
ICS/LABAからICS/LAMA/LABAへ考慮する患者像
・喘息症状が持続している症例
・閉塞障害が残存している症例
・増悪を繰り返す症例
・早期導入による難治化予防
・喀痰・咳嗽が多い症例
・事前の効果予測はできない
・抗体製剤(ゾレア・デュピクセント・ヌーカラ・ファンセラ)を開始する前に試してみる
実地臨床での気管支喘息 吸入療法
・二つの吸入デバイスから一つの吸入デバイスのメリットは大きい
・ICS/LABA からのステップアップ
・無治療からのトリプル製剤
初期治療での失敗を最小限にできる
十分な抗炎症・気管支拡張してからのステップダウン
これからの喘息治療の主役になるのではないか
喘息でのトリプル療法が治療戦略に与えるインパクト
喘息死は2019年において1481名で、ここ数年下げ止まりである。
今後はいかにして喘息死を防ぐかが重要である。
症状を指標とした治療と比べ、炎症コントロールを指標とした治療の方が増悪頻度が減少する。
気道上皮が重なり合うことで気道リモデリングが進展する。
気道炎症のコントロールと同様に、気流制限の解除も必要である。
多くの患者がICS/LABAの治療に関わらずコントロール不良である。
喘息患者のトリプル治療が考慮すべき患者像
・コントロール不良、不十分で症状が残る
・気流制限が解除されない
・増悪を繰り返す
・ウイルス感染時の増悪抑制
・非好酸球性気道炎症
以上が本日の講演会の大きな流れであった。
以下に私の見解を述べさせていただく。
初診時からトリプル治療はどうか?
高用量ICS/LABAを使用してもコントロール不良で、特に痰や息切れの場合にはLAMAを追加することは大きな効果をもたらすと考える。
さらに抗体製剤を考慮する前に、3剤合剤を導入することによってコントロールを得られる可能性がある。
また2つのデバイスで3剤を使用していた場合に、1つのデバイスにすることによってアドヒアランスと薬剤費用の観点よりメリットが大きい。
初診時からトリプル治療について
初診時からトリプル治療を導入することに関しては、ある程度経験が必要と思われる。
患者さんにとって最も良いことは、最小限の薬にて最大限の効果が得られることである。
さらに喘息治療においては必要最小限の薬剤にて長期にわたる治療(細く長く)が理想である。
初診時に患者さんが医療機関を受診する理由は様々である。
咳嗽、喀痰、呼吸困難で受診するが、一人ひとりの背景や原因、程度、罹病期間、発作、経済力、理解力の程度は異なる。
・具合が悪くなったの時期は、数年前か数か月前か数週前か数日前か
・具合が悪くなった原因が、感染、アレルギー、ストレス、環境の変化なのか
・具合の程度は軽いのか重いのか、夜は寝れるか、苦しいか否か
・年齢は若年なのか高齢なのか
・基礎疾患はあるか否か
・喫煙歴はあるのか否か、どの程度喫煙をしていたのか
・生活環境はどのような感じか
・忙しいか否か、近隣からの受診か、遠方からの受診か、継続通院できそうか否か
・元気な時はどの程度の活動が可能であったか
・治療して今後2週間後、ひと月後、1年後、10年後がイメージできるか
初診時には様々考える要因がある。
その中で本当に喘息でよいか否かも含まれる。
さらに喘息の中でもCOPDを合併している症例もも多くある。
通院を何回か繰り返し、詳細な採血結果や季節性の変化を見極めつつ診断を詰めていくこともよくある。
初診時から3剤合剤を使用する場合に考慮すべきこと2つ
1,3剤合剤が効果なかった場合に、次の一手はどうするか分かっていること
2,3剤合剤を使用し、今後どのようにステップダウンするかイメージをつかめていること
上記2点が理解できていれば初診時から3剤合剤を使用することは可能である。
最終的に、必要最小限の薬剤にて長期にわたる治療(細く長く)ができればと思う。
投稿者プロフィール
- 2017年1月、希望が丘(神奈川県横浜市)にて、やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックを開院しました。
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