クリニックだより 内科

GSK Asthma Portfolio National Conference in Osaka

内科

喘息治療最前線 トリプル療法・バイオ治療の進化

大阪にてグラクソスミスクラインによる講演会に出席しました。

今回の講演はここ数年における様々な大人数における講演において、最も素晴らしい内容であった。

その理由として演者と質問者がかなり高レベルでの話し合いが出来ていたことによる。

Keynote Speech 喘息治療が目指すべき次の治療戦略

• コントロール不良の喘息は全世界での大きな問題となっている。

• 日本国内でも地域差により、喘息のコントロール状態に差異が見られる。

• 喘息治療の大多数は非専門医によって実施されている。

「Treatable Traits」という概念を紹介。

 これは喘息の診断名が同じ患者でも、その患者の特徴に合わせて最適な治療を提供するという考え方。

 これには患者の肺の特性、生活様式、行動、他の健康状態や併存する疾患などを考慮する。

• 喘息の「臨床的寛解」に関する内容も取り上げられた。

• 喘息治療のガイドラインとして「PGAM」についての説明があった。

• 最後に、生物学的製剤という新しい治療方法について触れられた

講演1.喘息治療のカギを握る2つのターゲット

主に基礎の内容で喘息におけるアセチルコリンと好酸球についての解説

喘息と呼吸機能の関係:年齢によって喘息と呼吸機能の関係性が異なることについての詳細な解説。

気道の神経密度と好酸球:喘息において気道の神経密度が増加することと、これが好酸球と関連していることの説明。

神経可塑性:神経の適応能力や変動性に関する概念。

アセチルコリンと喘息:アセチルコリンが喘息の病態にどのように関与しているのか。

M3受容体とβ2受容体:M3受容体は中枢と末梢気道に、β2受容体は末梢気道に主に位置している。

ムスカリン受容体とβ2受容体のクロストーク:これらの受容体間の相互作用が相加的であることの説明。

アセチルコリンM2受容体の機能不全:M2受容体の異常や不機能に関する情報。

「Treatable Traits」と吸入療法:Treatable Traitsの考え方に基づく吸入療法、特にトリプル治療の意義。神経可塑性、好中球炎症、粘液産生亢進がある患者(例:肥満、感染、COPD等)へのアプローチ。

好酸球に関する情報:
好酸球が引き起こす粘液栓の概要。 

 Etosisの解説。

 外的因子による好酸球の活性化や炎症刺激(ダニアレルゲン、真菌等)。

 喘息における真菌感染の増加傾向。

 酸化ストレス時の好酸球の役割。

 好酸球の恒常性の維持メカニズム。

 好酸球の二面性(抗炎症的特性か炎症的特性か)の説明。

講演2 喘息シーズン直前、吸入療法の決め手とは?

気道とアセチルコリン:気道におけるアセチルコリンの主要な作用は気道の拡張や分泌の抑制であり、さらに咳反射にも影響を及ぼす。

「Treatable Traits」:これは患者の特性や症状に合わせて最適な治療を提供する新しい考え方。

今後、患者個別の治療戦略の重要性が強調されている。

LAMAの分泌抑制作用:LAMA(長時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬)には気道の分泌を抑制する効果がある。

GSKのデータ:ICS(吸入ステロイド)とLABA(長時間作用型β2作動薬)の使用患者に関するアンケート結果。not well controlの患者が38.3%であり、咳、痰、息切れや喘鳴などの症状がしばしば残る。これにも関わらず、一部のICS/LABA使用患者では治療への遵守が確認されているが症状が残ることが指摘されている。

咳症状の解決:咳反射は気道収縮や炎症により誘発される。喘息性の咳嗽に対して、LAMAの治療効果が注目されている。

トリプル治療の作用機序:トリプル治療は気道の収縮を改善し、分泌を抑制する。さらに、咳反射の抑制効果も確認されている。

LAMAと呼吸困難:LAMAはもともとCOPDの治療薬として開発された。テリルジー100は、レルベア100と比較して、喘息の増悪リスクを低下させる効果があるとされる。

RSウイルスの重要性:RSウイルスは特に高齢者や幼児に重症化するリスクがあり、喘息やCOPDの患者においても増悪の要因となることが知られている。

講演3 重症喘息で目指す「シン・治療目標」

自然寛解と臨床的寛解:自然寛解は治療なしでの症状の緩和を指し、臨床的寛解は治療による症状の完全な制御を指す。

国別寛解率:イタリアとフィンランドのデータを基に、成人喘息患者の寛解率が解説されている。

他疾患における寛解:リウマチや血液悪性腫瘍など、他の疾患での寛解の概念が触れられている。

生物学的製剤と臨床的寛解:

ベンラリズマブ、デュプリマブ、メポリズマブ:これらの生物学的製剤が臨床的寛解の達成に貢献する可能性があることがエビデンスとして提示されている。

・生物学的製剤は臨床的寛解を達成するチャンスをもたらすが、それが全てではない。寛解が達成できなかった場合も、最悪のシナリオとは言えない。

・生物学的製剤の使用後の効果:中断後も状態が大幅に悪化することは少ないとの見解。これらの製剤が疾患の進行そのものを修飾する可能性もあると思われる。

治療アプローチの変遷:従来のステップワイズアプローチから、今後は「Treatable Traits」を中心に個別の治療戦略が求められる。これには、将来のリスク管理も組み込まれる。

演者の私見:重症喘息に対しては、早期の生物学的製剤の導入と、経口ステロイドの使用の回避が重要。目標は、臨床的寛解を超えた完全な寛解、すなわち「治癒」への道を目指すこと。

パネルディスカッション

テーマ1.PGAMにおける臨床的寛解は実臨床にて達成可能かどうかアンケート
 回答が最も多かった順位
 1、 一部達成可能である
 2、 達成可能である

 呼吸機能についての議論があり正常化は難しいが安定化で良いのでは、患者に応じて考えること

テーマ2 ICS/LABAとトリプル治療の選択について
 患者タイプは明確になっているかどうかのアンケート形式
 回答が最も多かった順位
 1、 ある程度明確になっている
 2、 明確になっている

今後の課題はステップダウンについてとのこと

テーマ3 重症喘息のフェノタイプについて
好酸球性フェノタイプを特定する好酸球の数値としてはどれかアンケート形式
 回答が最も多かった順位
 1、 300以上
 2、 150以上

PGAMにおいては150以上としている

好酸球は%ではなく絶対数で見た方が良い。

今回の講演会における感想


概観:
この講演は、近年の喘息治療の革新と進展を概説するものであり、専門家や関心を持つ者にとって非常に有益であると考えられます。特に、喘息治療の個別化という新しいアプローチを強調していることが注目に値します。

「Treatable Traits」という概念: これは喘息治療の新しいパラダイムとして注目される概念で、患者の特徴や症状に合わせて最適な治療を提供することを強調しています。これにより、一般的なガイドラインからの乖離を許容し、より個別化された治療戦略を提供することができると期待されます。

トリプル治療と生物学的製剤: これらは喘息治療の新しいアプローチとして、近年多くの注目を浴びています。特に生物学的製剤は、重症喘息患者に対して有望な治療オプションとして期待されています。

咳症状に対する治療: LAMAの使用は、喘息の症状の一つである咳に対しての有効性が注目されています。これにより、患者のQOLの向上が期待されます。

パネルディスカッション: PGAMの臨床的寛解、ICS/LABAとトリプル治療の選択、重症喘息のフェノタイプに関する議論は、現場の実臨床での課題を共有し、今後の方向性を示唆するものであり、非常に有意義であると思われます。

感想:
グラクソスミスクラインが主催するこの講演は、喘息治療の最前線を理解する上で非常に価値があります。特に、個別化された治療戦略の重要性や新しい治療方法の導入についての情報は、臨床家や研究者にとっての貴重な情報源となるでしょう。

総じて、この講演は、喘息治療の最新のトピックスや研究の進展を網羅的にカバーしており、参加者にとって非常に有益であったと考えられます。

「Treatable Traits」と比叡山延暦寺

比叡山延暦寺「千日回峰行者 特別祈祷」参加のご報告

投稿者プロフィール

院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
2017年1月、希望が丘(神奈川県横浜市)にて、やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックを開院しました。