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大阪で開催された重症喘息治療の未来を探る – Mepolizumab Severe Asthma National Conference

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生物学的製剤の可能性と未来への一歩 – 重症喘息の治療戦略と臨床的寛解の追求

本日、大阪で開催された「Mepolizumab Severe Asthma National Conference」に参加する機会を得ました。
この講演は、重症喘息の最新治療法についての知識と経験を共有するためのもので、特にメポリズマブという生物学的製剤の使用に焦点を当てていました。

講演のキーノートスピーチでは、臨床的寛解の重要性と、これを達成するための高い治療目標が強調されました。
イタリアやドイツの定義の紹介、未来のリスクについての議論、環境保全機構のデータ分析など、幅広い話題が取り上げられました。
特に、帝京大学のデータからは、生物学的製剤の使用により、一定の割合の患者が寛解に至る可能性があることが示唆されています。
具体的には、71人の患者のうち16.9%が寛解を達成しており、これは生物学的製剤による治療の肯定的な成果と見ることができます。

第一の講演では、バイオ製剤が重症喘息治療においてどのように新しい目標を切り開いているかが議論されました。
米国やフィンランドのデータに基づいて、小児喘息や成人喘息における寛解の可能性が示され、メポリズマブの臨床的寛解への貢献が強調されました。

第二の講演では、IL-5と好酸球が免疫システムにどのように影響を与えるかに焦点を当てました。
好酸球性喘息のフェノタイプ、IL-5による免疫システムの活性化など、この複雑な相互作用が詳細に説明されました。

第三の講演「Compass Needle for Clinical Remission toward 2024」では、臨床的寛解を目指す道筋が提示され、メポリズマブの効果についてさらに詳しく語られました。

ディスカッションセッションでは、臨床的寛解の達成可能性について意見が交わされ、特にACTのスコア23点以上を達成することの難しさが指摘されました。

この会議を通じて、重症喘息治療における最新の進歩と課題を深く理解することができました。
メポリズマブを含む生物学的製剤は、多くの患者にとって有望な選択肢であることが明らかになりましたが、まだ克服すべき課題が多いことも確認されました。
臨床的寛解への道のりはまだ続いており、将来的な治療法の発展に期待が高まっています。

Keynote Speech さらなる高い治療目標へ

・臨床的寛解 について
・イタリアの定義、ドイツの定義の紹介
・Future riskについて
・環境保全機構における2014年から7年間の増悪データと予測因子について
・帝京大学のデータ紹介、71人で生物学的製剤において16.9%が寛解
・ IL-5受容体抗体αの発現は好酸球だけではなく、上皮細胞や形質細胞など複数の細胞に存在している
・環境保全機構のコホート試験の紹介、コロナ渦において喘息増悪頻度は減少していたが今年は増悪が多い

講演1.バイオ製剤が切り拓く重症喘息の新たな目標

・寛解 と治癒について
・米国のデータにおいて小児喘息は26%が寛解
・フィンランドのデータにおいて成人喘息において年齢別の寛解 の紹介
 12~39歳 15%  40-69歳 5%
・リウマチとの比較 
・メポリズマブと臨床的寛解 について
・重症喘息で臨床的寛解 は生物学的製剤においてエビデンスはあり
・さらにメポリズマブは臨床的寛解 を達成できる可能性あり
・PGAMの定義を紹介
・なぜACTの設定は23点なのか
 3way(コントロール、増悪、全身ステロイド)と4way(+呼吸機能)の説明
・私見 まず3way、その後4wayを目指す
・臨床的寛解 の達成の先には疾患修飾もあり
・発症早期に生物学的製剤の介入によりよい予後となる
・山口大学の臨床的寛解 のデータ紹介
・今後の喘息治療はtreatable traitsと、症状コントロールから将来のリスク管理へ
そこにQOL向上と健康寿命延伸がある

講演2.免疫システムを制御するIL-5と好酸球

・成人発症喘息における好酸球性の炎症の重要性 ECRS,ABPA,ABPM,NERD,EGPA
・EGPAにおける好酸球の病態への関与
・ABPAの因子分析と好酸球の関与
・好酸球性喘息における粘液性と呼吸機能低下
・好酸球性喘息のフェノタイプの分布
・IL-5による免疫システムの活性化 
・IL-5による好塩基球の活性化、マスト細胞の活性化
・形質細胞、気道上皮細胞、肺線維芽細胞におけるIL-5受容体の発現

・好酸球の活性化を誘導する免疫システムについて
・重症喘息の治療においてメポリズマブによるIL-5を起点とした2型炎症のコントロール

講演3.Compass Needle for Clinical Remission toward 2024

・PGAMの復習
・山口大学の臨床的寛解 データの紹介
・生物学的製剤において臨床的寛解 は15~40%得られる
・メポリズマブにおいては37%
・なぜメポリズマブは高い臨床的寛解 率なのか説明
・喘息における抗ウイルス療法について
・メポリズマブは好酸球の正常化をもたらす

ディスカッション

・臨床的寛解 は一部達成可能である
・最も困難と感じる項目はACT23点以上
・呼吸機能の安定化について

肯定的な感想と総括

この会議は、重症喘息治療の新しい可能性を開くものでした。
メポリズマブに関する最新の臨床データと研究成果が紹介され、その効果が多くの研究者と医師によって支持されていることが明らかになりました。
特に、生物学的製剤が重症喘息患者の生活の質を大きく向上させる可能性があり、今後の治療法の標準となる可能性が高いことが示されました。
また、IL-5受容体抗体αの発現に関する新しい知見は、喘息治療の理解を深めるものであり、研究者や医師に新たな治療戦略を提供しています。

疑問的な感想と総括

一方で、この講演では、メポリズマブを含む生物学的製剤に関する疑問点や懸念も提起されました。
寛解率の数字は魅力的ですが、実際の治療現場では、効果が見られない患者も少なくないことが問題です。
また、生物学的製剤の高額な治療費や、長期的な使用における指針は明確ではなく(いつやめられるのか)、広く普及するには大きな障害となっています。
さらに、ACTスコア23点以上という高い基準を達成するのは現実的ではないという声もありました。
これらの問題点を踏まえると、メポリズマブを含む生物学的製剤が全ての重症喘息患者に適した治療法であるとは限らないことが明らかです。

結論

この講演は、重症喘息治療におけるメポリズマブの有効性と限界を浮き彫りにしました。
肯定的な面も疑問的な面も考慮に入れ、今後の研究と臨床応用において、これらの知見を活かしていくことが重要です。
特に、生物学的製剤に関するさらなる研究と、長期的な安全性と効果に関するデータの収集が求められます。
重症喘息患者の治療に新たな希望を与える一方で、より現実的で包括的な治療アプローチの開発が今後の課題となります。

投稿者プロフィール

院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
2017年1月、希望が丘(神奈川県横浜市)にて、やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックを開院しました。