「頑張れているから大丈夫」と思っている、あなたへ

ロン・ミュエク《買い物中の女》を見ながら

ロン・ミュエク展で《買い物中の女》という作品の前に立ったとき、私は当院に通われている、あるひとりの患者さんのことを思い出していました。

コートの内側には赤ちゃん。
両手には、重そうなオレンジ色の買い物袋。

女性は笑っていません。

赤ちゃんを見るでもなく、こちらを見るでもなく、何かを考えながら遠くを見つめています。

疲れているようにも見えます。
しかし、疲れたと訴えることすら、もう忘れてしまっているようにも見えます。

頑張っている人ほど、疲れを表に出さない

この作品は、ロン・ミュエクがロンドンの交差点で、赤ちゃんを抱き、オレンジ色の買い物袋を持って信号を待つ女性を見かけたことから生まれたとされています。

西洋美術における「聖母子像」を、現代の日常生活の中に置き換えた作品とも考えられています。

けれど、そこに描かれているのは、理想化された母親の姿ではありません。

育児、家事、仕事、買い物。

家族の予定を考え、食事を用意し、子どもの体調を気にかけ、自分の仕事も休めない。家計のこと、夫婦のこと、親のこと、これからの生活のことまで考え続ける。

外からは普通に生活しているように見えても、その内側には、他人には見えない重さが積み重なっています。

体調を崩す理由は、ひとつではありません

当院には、多くの女性患者さんがいらっしゃいます。

咳が続く。
息苦しい。
動悸がする。
頭が痛い。
眠れない。
朝から身体が重い。
検査では大きな異常がないのに、どうしても調子が戻らない。

体調を崩す理由は、病気だけとは限りません。

仕事の負担。
子育ての疲れ。
人間関係のストレス。
経済的な不安。
家庭内の問題。
誰にも理解されない孤独。

そして時には、

「自分のことが好きになれない」
「自分には価値がないように感じる」
「いつも何か悪いことが起こりそうで不安」

という気持ちが、身体の不調と深く結びついていることもあります。

本人が弱いから体調を崩したのではありません。

むしろ、長い間、弱音を吐かずに頑張り続けてきたからこそ、身体が先に限界を知らせているのかもしれません。

身体は、言葉より先に苦しさを伝えます

不安や緊張が続くと、身体にも変化が現れます。

肩に力が入る。
首が前に出る。
呼吸が浅くなる。
胸が詰まったように感じる。
眠っても疲れが取れない。
ちょっとした刺激で咳が出る。
胃腸の調子が安定しない。

こうした症状は「気のせい」ではありません。

心と身体は別々に存在しているのではなく、互いに影響し合っています。つらい状況が長く続けば、自律神経や睡眠、呼吸、免疫にも影響が及びます。

身体は、本人が口にできない苦しさを、症状として伝えているのです。

この作品を見て、あなたのことを想っていました

この女性の表情を見ながら、私は思いました。

あの患者さんも、診察室を出た後には、また仕事に戻り、家族のために買い物をし、食事を作り、何事もなかったように一日を終えるのだろう。

診察室では「大丈夫です」と話していても、本当は大丈夫ではないのかもしれない。

「もっと頑張らなければ」
「自分が我慢すればいい」
「これくらいで弱音を吐いてはいけない」

そんな言葉を、心の中で何度も繰り返しているのかもしれない。

この作品を見ながら、私はあなたのことを想っていました。

まず、疲れていることを認めてください

身体を整える第一歩は、さらに頑張ることではありません。

まず、自分が疲れていることを認めることです。

つらいと感じることに、理由や許可は必要ありません。

誰かと比べる必要もありません。

病名がつかなくても、検査結果が正常でも、ご本人が苦しいのであれば、その苦しさは存在しています。

「今日はつらい」
「少し休みたい」
「誰かに話を聞いてほしい」

そう感じる自分を、どうか責めないでください。

当院が、少しでも支えになれれば

医療機関だけで、仕事や家庭、経済的な問題のすべてを解決できるわけではありません。

それでも、症状を診察し、必要な検査や治療を行い、生活背景にも耳を傾けることはできます。

そして、

「あなたの苦しさを、ひとりで抱えなくてもよい」

とお伝えすることはできます。

咳や息苦しさ、眠れないこと、疲れが取れないこと。その奥にある不安や生活の負担についても、話せる範囲でお聞かせください。

当院に来ることで、身体だけでなく、心の荷物もほんの少し軽くなる。

そんな場所でありたいと思っています。

頑張れているから、大丈夫なのではありません。

頑張り続けている人にこそ、支えが必要です。

どうか、自分自身のことも、赤ちゃんや家族を抱きしめるように大切にしてください。

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投稿者プロフィール

院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
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からだ整えラボ
① 医学=呼吸器・アレルギー
② 生活=腸・温活・食・睡眠・肌
③ 幸福=働き方・環境・園芸
“病気を診るだけでなく、人をまるごと診たい”
——その思いを胸に、学びを続けています。
医学的根拠 × 生活習慣 × 心の豊かさ
三位一体の医療をめざしています。
資格:
<医学・医療>医学博士、日本呼吸器学会認定呼吸器専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医、日本喘息学会認定喘息専門医、日本内科学会認定内科医、日本喘息学会認定吸入療法エキスパート
<予防医学・代替医療・環境>
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カラダ取説®マスター・ジェネラル
環境省 環境人材認定事業 日本環境管理協会認定環境管理士、漢方コーディネーター、内面美容医学財団公認ファスティングカウンセラー、日本セルフメンテナンス協会認定腸内環境管理士、腸内環境解析士、日本温活協会認定温活士、薬膳調整師、管理健康栄養インストラクター、食育健康アドバイザー、日本フェムテックマイスター協会公認フェムテックマイスター®上級、公認妊活マイスター®Basic、日本スキンケア協会認定スキンケアアドバイザー、メンタル士心理カウンセラー、アーユルヴェーダアドバイザー、快眠セラピスト、安眠インストラクター
<文化・生活>
日本園芸協会認定ローズ・コンシェルジュ、ローズソムリエ®(バラ資格)
<受賞歴>
第74回日本アレルギー学会学術大会「働き方改革推進奨励賞」受賞