クリニックだより

谷川俊太郎の詩「生きる」を考察し、患者さんへのメッセージ

谷川俊太郎の詩「生きる」を考察し、患者さんへのメッセージ

谷川俊太郎さんが亡くなられたことは、多くの人々にとって大きな衝撃であり、深い悲しみをもたらしました。

彼の作品は、生きること、愛すること、感じることの素晴らしさを私たちに教えてくれました。

とりわけ、「生きる」という詩は、そのシンプルな言葉でありながら、生きる意味を深く問いかけてくるものでした。

この詩を読んで、日常の中にある小さな奇跡や、見過ごしがちな感情に気づくことができるかもしれません。

患者さんやその家族、病気と向き合う皆さんにとって、この詩が心の支えや勇気となることを願って、ここに全文を紹介します。


生きる
谷川俊太郎

生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること
あなたと手をつなぐこと

生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと

生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ

生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと

生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ


この詩の中で谷川俊太郎さんは、生きているということを日常の中の些細な出来事や感覚、風景を通じて語っています。

詩の冒頭で語られる「のどがかわく」「木もれ陽がまぶしい」といった感覚は、日々の生活の中では当たり前のものに思えるかもしれません。

しかし、それこそが生きている証であり、豊かな瞬間なのです。

病気や治療の過程で、心が折れそうになるときもあるでしょう。

そんなとき、この詩を読んで、あなたが感じている一瞬一瞬に価値があることを思い出してみてください。

辛い日々の中にも、誰かと手をつなぐ温もりや、ふっと微笑む瞬間があります。

谷川さんは「いまいまが過ぎてゆくこと」と詠むことで、今この瞬間が次の瞬間へと続いていること、生きるということが動的で連続したものであることを伝えています。

「泣ける」「笑える」「怒れる」という感情の豊かさも、病気を抱える中で感じるものです。

これらは、あなたが確かに「生きている」という証です。

この詩の最後、「いのちということ」で締めくくられる言葉には、生命そのものへの讃歌が込められています。

生きることがどれだけ困難であっても、その中にある意味や価値を見出せるよう、詩を通じて心の深いところに触れていただけたらと思います。

あなたの生きている「いま」は、かけがえのないものであり、希望や勇気を持って次へとつながっていきますように。

詩についてのさらなる考察

詩は生きることの豊かさや意味を丁寧に描き、病気と向き合う患者さんにとっての心の拠り所を見事に表現しています。

ここからさらに一歩進んで、この詩をより深く理解するための考察をいくつか挙げてみましょう。

1. 詩の構造と表現技法
この詩は「生きているということ」というフレーズが繰り返し登場し、生命の存在そのものを強調します。反復によって読者は、生きることがいかに多様で、さまざまな感覚や体験によって成り立っているかを心に刻むことができます。また、詩中の列挙法は、生命が抱える美しさとその一方にある悪や苦しみを同時に見せることで、生の複雑さを表現しています。

2. 「生きる」という言葉の意味
「生きる」という言葉は、この詩の中で生物学的な活動を超えて、社会や人間関係、感情を含むものとして描かれています。谷川俊太郎さんは、喜びだけでなく苦しみも包み込むことで、読者にとっての「生きる」を考えさせ、生命そのものが持つ多層的な価値を示しています。

3. 読者への問いかけ
この詩は、読者に自分自身の「生きる」という体験を考えるきっかけを与えます。自分にとっての「生きる」とは何か、何が大切で、どの瞬間が自分を動かすのか、そうした問いかけを通じて、詩を自分ごととして感じてもらうことができます。

4. 詩が与える影響

詩中の具体的な描写は、読者に心の癒しをもたらし、生命の持つ美しさや複雑さを感じさせます。病気と闘う中で、この詩を読むことで生きる喜びや希望を再発見できるかもしれません。日々の辛さの中でも、この詩の言葉は心の奥底で響き、少しの勇気や支えとなるでしょう。

5. 詩の普遍性
この詩は、時代や文化を超えて愛される普遍的なテーマを持っています。誰もが共感できるシンプルな言葉でありながら、深く考えさせられる内容は、全世界の読者の心をつかんで離しません。

投稿者プロフィール

院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
2017年1月、希望が丘(神奈川県横浜市)にて、やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックを開院しました。