薬を減らす前に。あなたの生活習慣は本当に「脳」を守れていますか?

薬のせいにする前に。あなたの生活は本当に「脳」を守っていますか?

最近、週刊誌やテレビ、ネットニュースなどで、
「この薬を飲むと認知症になる」
「高齢者は薬を減らした方がいい」
「薬をやめれば認知症を防げる」
というような刺激的な見出しを見かけることがあります。

その影響でしょうか。外来でも、ときどき患者さんから不安そうにこう聞かれます。

「先生、薬を飲むと認知症になるんでしょうか」
「血圧の薬を飲み続けるのが怖くなりました」
「できれば薬を減らしたいです」
「薬はなるべく飲みたくありません」

そのお気持ちは、よくわかります。

誰でも薬は少ない方がいい。
できれば薬に頼らず、自然に健康でいたい。
年をとっても、頭はしっかりしていたい。
認知症にはなりたくない。

その願いは、まったく間違っていません。

しかし、診察室で多くの患者さんと向き合っていると、私はどうしても胸に浮かぶ問いがあります。

薬を悪者にする前に、あなたの毎日の生活は、本当に「脳」を守るものになっていますか?

薬が怖い。
薬をやめたい。
認知症になりたくない。

そう思うのであれば、まず一度だけ立ち止まって考えてみてほしいのです。

あなたは自信をもって、こう言えるでしょうか。

「私は、認知症になりにくい生活をしています」
あなたは本当に「脳を守る生活」をしていますか?

少し厳しい言い方に聞こえるかもしれません。
しかし、大切なことなので、あえてお伝えします。

もし、次のような生活を送りながら「薬だけ」を怖がっているのだとしたら、本当に見直すべきものは薬ではなく、毎日の生活かもしれません。

  • 塩分の多い食事を好んで続けている
  • 甘いものや間食が毎日の習慣になっている
  • 日常的に運動不足である
  • 夜更かしが多く、睡眠の質が悪い
  • お酒の量がだんだん増えている
  • たばこがやめられない
  • 人との交流が減っている
  • 耳が聞こえにくいのに、そのままにしている
  • 目が見えにくいのに、受診を後回しにしている
  • 健診で血圧・血糖・脂質の異常を指摘されても、放置している

これらに心当たりがあるなら、薬よりも先に、あなた自身の日常が脳を危険にさらしている可能性があります。

本当に怖いのは、薬そのものではありません。
毎日少しずつ、脳と血管を傷めている生活を放置することです。

薬は本当に「悪者」なのでしょうか?

もちろん、私は「薬なら何でも飲み続ければいい」と言いたいわけではありません。

高齢の方では、注意が必要な薬があるのは事実です。

たとえば、睡眠薬、抗不安薬、抗コリン作用のある薬、一部の抗アレルギー薬、一部の排尿の薬などは、眠気、ふらつき、せん妄、物忘れのような症状に関係することがあります。

ですから、不要な薬は減らすべきです。
量が多すぎる薬は調整すべきです。
漫然と続いている薬は見直すべきです。
眠気やふらつき、物忘れの原因になっている薬があれば、医師と相談して整理すべきです。

しかし、それと、「薬は悪いものだから、自分の判断でやめてしまおう」という話はまったく別です。

血圧の薬をやめて高血圧を放置すれば、脳卒中のリスクが上がります。
糖尿病の薬をやめて高血糖が続けば、全身の血管と神経が傷みます。
脂質異常症を放置すれば、動脈硬化が静かに進みます。
心房細動の薬を自己判断でやめれば、ある日突然、大きな脳梗塞につながることもあります。

薬をやめたことで、かえって脳を傷つけてしまうことがあるのです。

薬は敵にもなり得ます。
しかし、必要な薬は、脳と血管を守る味方にもなります。

認知症は「薬の有無」だけで決まるほど単純ではありません

認知症は、ある日突然、薬の副作用だけで起こるような単純な病気ではありません。

一時的な薬による頭のぼんやり感、薬剤性の認知機能低下、せん妄は確かにあります。そこは医師がきちんと見極めるべき領域です。

しかし、多くの場合、認知症の背景には、長年の生活習慣、血管の状態、睡眠、栄養、運動、社会とのつながり、聴力や視力、気分の落ち込みなどが複雑に関係しています。

世界的な医学誌であるLancet Commissionの報告でも、認知症の修正可能なリスク因子として、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、過剰飲酒、運動不足、うつ、難聴、社会的孤立、高LDLコレステロール、視力低下などが整理されています。

つまり、認知症予防は「薬を飲むか、飲まないか」だけの問題ではありません。

認知症予防とは、人生全体の生活習慣と全身管理の問題です。

薬だけを怖がるより、毎日の生活を見直すことの方が、はるかに大きな意味を持つ場合があります。

「薬が怖い」と言う人ほど、生活は変えないことがある

外来で、ときどき不思議に思うことがあります。

薬を怖がる方はいます。
薬の副作用を心配する方もいます。
薬を減らしたいと強く希望される方もいます。

それ自体は悪いことではありません。自分の体のことを考えるのは、とても大切です。

ただ、その一方で、生活習慣の話になると急に声が小さくなることがあります。

「運動はしていますか」
「いや、あまりしていません」

「夜はよく眠れていますか」
「寝る前までスマホを見ています」

「間食はどうですか」
「甘いものは毎日食べています」

「お酒はどうですか」
「毎晩飲みます」

「血圧のために塩分は控えていますか」
「味の濃いものが好きなんです」

「たばこはどうですか」
「なかなかやめられません」

そして最後に、こう言われます。

「でも先生、とにかく薬は減らしたいんです」

そのとき、私は心の中で静かに思います。

本当に怖がるべきなのは薬でしょうか。
それとも、毎日少しずつ脳と血管を傷めている、その生活でしょうか。

薬を悪者にすると、少し楽です。
「自分は悪くない。薬が悪い」
そう考えることができるからです。

でも、病気はそんなに単純ではありません。

高血圧を作る生活。
血糖値を上げる生活。
動脈硬化を進める生活。
睡眠を壊す生活。
筋肉を落とす生活。
人との関わりを減らす生活。

その積み重ねこそが、脳の力を少しずつ奪っていくことがあります。

認知症を防ぎたいなら、まず「血管」を守ることです

認知症というと、脳だけの病気のように思われがちです。

しかし、脳は血管の臓器でもあります。

血流が悪くなれば、脳は傷みます。
小さな脳梗塞が積み重なれば、認知機能は落ちます。
血圧、血糖、脂質が乱れれば、脳の血管もダメージを受けます。

血管を守ることは、脳を守ることです。

血圧を整える。
血糖を整える。
脂質を整える。
たばこをやめる。
体を動かす。
睡眠を整える。
体重を管理する。

これは、単に「生活習慣病をよくする」という話ではありません。

将来の脳を守る話です。

80代になっても頭がしっかりしている患者さんは、必ずしも薬を飲んでいない人ではありません。

むしろ、血圧や糖尿病、脂質異常症の薬をきちんと使いながら、よく歩き、食事を整え、人と会話し、よく眠り、生活リズムを保っている方もたくさんいます。

薬を飲んでいるかどうかだけではありません。

その人が、脳を守る生活をしているかどうか。
そこが、とても大切なのです。
「薬を減らしたい」なら、減らせる体を作りましょう

誤解しないでください。
私は、患者さんが「薬を減らしたい」と言うことを否定しているわけではありません。

むしろ、それは大切な希望です。

薬は必要最小限が理想です。
飲まなくてよい薬は飲まない方がよい。
副作用のある薬は見直した方がよい。
年齢とともに体の状態が変われば、薬の量も変わります。

だから、薬を見直すことは大切です。

ただし、薬を減らしたいなら、条件があります。

薬を減らせる体を、自分で作ることです。

血圧の薬を減らしたいなら、塩分を減らす。
体重を整える。
歩く。
睡眠を整える。
家庭血圧を測る。

糖尿病の薬を減らしたいなら、甘いものを減らす。
間食を見直す。
筋肉を落とさない。
食後に動く。
体重を管理する。

脂質の薬を減らしたいなら、食事を整える。
運動する。
内臓脂肪を減らす。
禁煙する。

睡眠薬を減らしたいなら、昼間に体を動かす。
朝日を浴びる。
寝る前のスマホをやめる。
昼寝をしすぎない。
寝酒をやめる。
睡眠のリズムを作る。

薬を減らすというのは、単に錠剤を減らすことではありません。

薬に頼らなくてもよい体に近づけることです。

そこを飛ばして、ただ薬だけを減らせば、病気が悪くなるだけです。

本当に怖いのは、薬ではなく「放置」です

薬は目に見えます。
錠剤として手元にあります。
だから、副作用の情報を見ると怖くなります。

一方で、生活習慣の乱れは目に見えません。

今日、塩分を摂りすぎても、すぐに痛みは出ません。
今日、運動しなくても、すぐに困るわけではありません。
今日、寝不足でも、なんとか一日は過ごせます。
今日、たばこを吸っても、その瞬間に脳梗塞になるわけではありません。

だから、私たちは生活習慣のリスクを軽く見てしまいます。

しかし、本当に恐ろしいのは、見えないところで進んでいく「放置」のダメージです。

高血圧の放置。
高血糖の放置。
脂質異常症の放置。
運動不足の放置。
睡眠不足の放置。
孤立の放置。
聴力低下の放置。
視力低下の放置。

これらは10年、20年という時間をかけて、あなたの脳と血管を静かに傷つけていきます。

本当に怖いのは、薬ではありません。
必要な治療をしないこと。生活を変えないこと。自分の体から目をそらすことです。
薬を飲むことは「負け」ではありません

薬を飲むことを、負けだと思わないでください。

薬を減らすことだけを、勝ちだと思わないでください。

大切なのは、薬の数ではありません。

あなたの体が守られているかどうか。
あなたの脳が守られているかどうか。
あなたの生活が、未来の自分を助けているかどうか。

そこが大切です。

そのために、どうしても今必要な薬があるなら、それは「脳と血管を守るための盾」として賢く使えばよいのです。

生活習慣が整い、体の状態がよくなり、不要になった薬があるなら、主治医と相談して減らしていけばよいのです。

でも、薬だけを悪者にして、生活を変えない。
それでは、未来の自分を守ることはできません。

今日からできる、脳を守る小さな一歩

認知症が怖いなら、薬だけを怖がらないでください。

今日からできる小さな一歩を始めてみましょう。

  • 普段より10分多く歩いてみる
  • 汁物のスープを半分残してみる
  • 甘いものを毎日から週数回に減らしてみる
  • 寝る前のスマホを枕元から離してみる
  • 朝に日光を浴びて、生活リズムを整えてみる
  • しばらく会っていない友人に電話してみる
  • 聞こえにくさを我慢せず、耳鼻科に相談してみる
  • 見えにくさを放置せず、眼科を受診してみる
  • 家庭血圧を測って、自分の体を知ってみる
  • 処方薬について、主治医に「今の私に必要ですか」と相談してみる

大きなことを一度に変える必要はありません。

小さな選択の積み重ねが、5年後、10年後の脳を作ります。

最後に、あなたへ伝えたいこと

薬を悪者にする前に、考えてみてください。

あなたは、自信をもって言えるでしょうか。

「私は、脳を守る生活をしています」
「私は、血管を守る生活をしています」
「私は、認知症のリスクを下げる努力をしています」

もし、胸を張ってそう言えないなら、今日から変えていきましょう。

薬を責めるのは簡単です。
生活を変えるのは難しい。

でも、その難しいことに向き合う人ほど、未来の自分を守ることができます。

薬を悪者にする前に、あなたの生活が脳にとって味方になっているか。
そこから、一緒に見直していきましょう。

参考情報

  • 高齢者では、睡眠薬・抗不安薬・抗コリン作用のある薬などが、眠気、ふらつき、せん妄、認知機能低下様の症状に関係することがあります。
  • Lancet Commissionでは、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、過剰飲酒、運動不足、難聴、社会的孤立、高LDLコレステロール、視力低下などが、認知症の修正可能なリスク因子として整理されています。
  • 薬の中止・減量は自己判断で行わず、必ず主治医と相談してください。

※本記事は一般的な医療情報であり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。現在内服中の薬について不安がある場合は、自己判断で中止せず、必ず医師・薬剤師にご相談ください。

投稿者プロフィール

院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
からだ整えラボ
① 医学=呼吸器・アレルギー
② 生活=腸・温活・食・睡眠・肌
③ 幸福=働き方・環境・園芸
“病気を診るだけでなく、人をまるごと診たい”
——その思いを胸に、学びを続けています。
医学的根拠 × 生活習慣 × 心の豊かさ
三位一体の医療をめざしています。
資格:
<医学・医療>医学博士、日本呼吸器学会認定呼吸器専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医、日本喘息学会認定喘息専門医、日本内科学会認定内科医、日本喘息学会認定吸入療法エキスパート
<予防医学・代替医療・環境>
機能的骨盤底筋エクササイズpfilAtes™認定 インストラクター国際資格← NEW✨
カラダ取説®マスター・ジェネラル
環境省 環境人材認定事業 日本環境管理協会認定環境管理士、漢方コーディネーター、内面美容医学財団公認ファスティングカウンセラー、日本セルフメンテナンス協会認定腸内環境管理士、腸内環境解析士、日本温活協会認定温活士、薬膳調整師、管理健康栄養インストラクター、食育健康アドバイザー、日本フェムテックマイスター協会公認フェムテックマイスター®上級、公認妊活マイスター®Basic、日本スキンケア協会認定スキンケアアドバイザー、メンタル士心理カウンセラー、アーユルヴェーダアドバイザー、快眠セラピスト、安眠インストラクター
<文化・生活>
日本園芸協会認定ローズ・コンシェルジュ、ローズソムリエ®(バラ資格)
<受賞歴>
第74回日本アレルギー学会学術大会「働き方改革推進奨励賞」受賞