AIには身体がない 野田秀樹さんの東大入学式祝辞を読んで

AIには身体がない

野田秀樹さんの東大入学式祝辞を読んで

やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニックの山口裕礼です。

野田秀樹さんが、令和8年度東京大学学部入学式で述べられた祝辞を読みました。

とてもユーモラスでありながら、AI時代を生きる私たちにとって、深く考えさせられる内容でした。

単なる入学式の祝辞ではなく、これからの時代に「人間とは何か」を問い直すような言葉でした。

3000人の新入生は「6万年分の記憶」

野田さんはまず、東大の入学式に集まった約3000人の新入生を、ただの人数として見ません。

一人ひとりが約20年生きてきたとすると、3000人で合計6万年分の記憶がそこに集まっている。

そう捉えるのです。

この発想が、とても面白いと思いました。

入学式に集まった若者たちは、単なる「新入生」ではありません。

それぞれが違う場所で生まれ、違う家族の中で育ち、違う失敗や喜びを経験してきた存在です。

成績や偏差値だけでは測れない、ひとりひとりの記憶があります。

その総量を「6万年分」と表現することで、入学式という場が一気に壮大なものになります。

AIは「記憶の化け物」である

そこから野田さんは、AIの話へ進みます。

AIは、膨大な情報を蓄積し、瞬時に答えを出します。

忘れない。

処理が速い。

多くの知識を持っている。

その意味で、AIはまさに「記憶の化け物」のような存在です。

今の時代、私たちはAIのすごさを日々感じています。

文章を書く。画像を作る。情報を整理する。質問に答える。

人間が時間をかけていた作業を、AIは驚くほど速くこなします。

では、人間はAIに勝てないのでしょうか。

野田さんは、そこで非常に大切な視点を提示します。

AIには身体がない

野田さんが指摘するAIの最大の弱点。

それは、AIには身体がないということです。

AIには知能があります。

情報処理能力があります。

膨大な記憶があります。

しかし、身体がありません。

疲れる身体がない。

老いる身体がない。

痛みを感じる身体がない。

死を恐れる身体がない。

誰かに触れ、誰かと同じ空間にいる身体がない。

これは、単なる機能の違いではありません。

身体があるからこそ、人間には心が生まれます。

身体があるから、不安があり、喜びがあり、切なさがあり、恐怖があり、愛情があります。

AIは「初恋」という言葉の意味を説明できるかもしれません。

けれど、初恋の切なさを身体で経験することはできません。

AIは「死」について文章を書くことはできます。

けれど、自分の身体がいつか終わるという恐怖や、限られた時間を生きる切実さを持つことはありません。

ここに、人間とAIの決定的な違いがあるのだと思います。

「知っていること」と「感じていること」は違う

この祝辞を読んで、私が強く感じたのは、知識として知っていることと、身体を通して感じていることは違うということです。

AIは、たくさんのことを知っています。

正確な説明もできます。

もっともらしい文章も作れます。

しかし、それはあくまで情報としての理解です。

人間は、同じ言葉を身体を通して受け取ります。

嬉しい言葉をかけられると、胸が温かくなる。

不安な知らせを聞くと、身体が固まる。

恥ずかしい思いをすると、顔が熱くなる。

悲しい出来事に触れると、涙が出る。

人間の心は、身体と切り離せません。

だからこそ、人間の記憶には温度があります。

匂いがあります。

手触りがあります。

痛みがあります。

懐かしさがあります。

AIの記憶が情報の集積だとすれば、人間の記憶は、身体を通した経験の蓄積なのだと思います。

役に立たない記憶こそ、人間らしい

野田さんの祝辞で面白いのは、東大生の記憶をすべて高尚なものとして語らないところです。

子どもの頃に道端で何かを拾った記憶。

怒られた記憶。

何の役にも立たなそうな記憶。

そういうものにも価値がある、と示しているところが魅力的です。

私たちはつい、役に立つ知識だけを大切にしがちです。

受験に役立つ知識。

仕事に役立つ情報。

効率を上げるノウハウ。

もちろん、それらは大切です。

しかし、人間を形づくっているのは、それだけではありません。

意味もなく覚えている風景。

なぜか忘れられない一言。

子どもの頃の失敗。

何でもない日の空気。

そういう記憶が、その人らしさをつくっているのだと思います。

AIは有用な情報を整理することが得意です。

しかし、人間には「役に立つかどうかわからないけれど、なぜか大切な記憶」があります。

そこに、人間の心が宿っているのではないでしょうか。

「新しい」と「若い」は違う

祝辞の中で、特に印象的だったのが、AIは新しくなることはあっても、若くなることはないという視点です。

これは、とても鋭い言葉だと思いました。

私たちは、つい「新しいもの」を価値あるものとして見ます。

新しい技術。

新しい情報。

新しいAI。

新しいサービス。

けれど、「新しい」と「若い」は違います。

若さには、身体があります。

未熟さがあります。

迷いがあります。

勢いがあります。

傷つきやすさがあります。

失敗があります。

そして、これから変わっていく可能性があります。

AIはアップデートされます。

新しくなります。

性能が向上します。

けれど、若い身体を持って悩みながら生きることはありません。

若さとは、単なる新しさではなく、有限の身体を持った人間だけにある時間なのだと思います。

身体があるから、未来を怖いと思える

野田さんは、AIが戦争や効率の問題に関わったときの危うさにも触れています。

AIは、最も効率的な答えを出すかもしれません。

勝つために合理的な作戦を導くかもしれません。

しかし、その判断に「身体の恐怖」があるのか。

誰かが死ぬということ。

誰かの身体が傷つくということ。

家族や大切な人を失うということ。

それを身体を通して怖いと感じる心がなければ、効率だけで恐ろしい結論に進んでしまう可能性があります。

この視点は、とても重要だと思いました。

人間には、怖いと感じる身体があります。

悲しむ身体があります。

痛みを想像する身体があります。

だからこそ、踏みとどまれることがある。

合理性だけではなく、身体に根ざした心が、人間の判断には必要なのだと思います。

AI時代に必要なのは「心を伴った知性」

これからの時代、AIを使わずに生きることは難しくなっていくでしょう。

AIは便利です。

仕事にも、学びにも、生活にも、大きな力を与えてくれます。

だから、AIを否定する必要はありません。

大切なのは、AIと同じような脳になることではないと思います。

速く答えるだけの人間。

正解だけを求める人間。

効率だけで判断する人間。

知識としてしか世界を見ない人間。

そうなってしまえば、人間の側がAIに近づいてしまいます。

野田さんの祝辞が伝えているのは、AIに対抗するためにもっと知識を詰め込め、ということではありません。

むしろ、心を伴った知性を持てということなのだと思います。

知識は大切です。

学問も大切です。

技術も大切です。

けれど、その知識を何のために使うのか。

誰のために使うのか。

その判断には、身体に根ざした心が必要です。

人間の未来を決めるのは、AIではなく人の心

この祝辞の最後に流れているメッセージは、とても力強いものです。

人間の未来を決めるのはAIではない。人の心である。

私は、そのように受け取りました。

AIが発達する時代だからこそ、私たちは改めて人間について考える必要があります。

人間には身体がある。

身体があるから、限りある時間がある。

限りある時間があるから、迷い、悩み、愛し、創り、誰かと関わる。

便利さや効率だけでは、人間の未来はつくれません。

そこに、痛みを想像する力、誰かを思う力、怖さを感じる力、喜びを分かち合う力が必要です。

AIがどれだけ進化しても、人間が人間であることの価値は消えない。

むしろAIの時代だからこそ、人間の身体と心の意味が、よりはっきり見えてくるのかもしれません。

まとめ

野田秀樹さんの東大入学式祝辞は、ユーモアにあふれた言葉でありながら、AI時代の本質を鋭く突いた内容でした。

AIには身体がない。

人間には身体がある。

身体があるから、心がある。

心があるから、記憶に温度が生まれる。

若さがあり、老いがあり、死があり、愛情がある。

私たちは、AIより多くを記憶する必要はないのかもしれません。

むしろ大切なのは、自分の記憶に心が伴っているか。

自分の知性に身体感覚があるか。

自分の判断に、人間への想像力があるか。

この祝辞を読んで、そんなことを考えました。

AIが急速に進化する今だからこそ、私たちは改めて問い直す必要があります。

人間とは何か。

心とは何か。

身体を持って生きるとは、どういうことか。

野田秀樹さんの祝辞は、その問いを、若い人たちだけでなく、私たち大人にも投げかけているように感じました。

AIの時代だからこそ、人間の身体と心の意味が問われている。

野田秀樹さんの祝辞を読んで、私はそう感じました。

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院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
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① 医学=呼吸器・アレルギー
② 生活=腸・温活・食・睡眠・肌
③ 幸福=働き方・環境・園芸
“病気を診るだけでなく、人をまるごと診たい”
——その思いを胸に、学びを続けています。
医学的根拠 × 生活習慣 × 心の豊かさ
三位一体の医療をめざしています。
資格:
<医学・医療>医学博士、日本呼吸器学会認定呼吸器専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医、日本喘息学会認定喘息専門医、日本内科学会認定内科医、日本喘息学会認定吸入療法エキスパート
<予防医学・代替医療・環境>
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環境省 環境人材認定事業 日本環境管理協会認定環境管理士、漢方コーディネーター、内面美容医学財団公認ファスティングカウンセラー、日本セルフメンテナンス協会認定腸内環境管理士、腸内環境解析士、日本温活協会認定温活士、薬膳調整師、管理健康栄養インストラクター、食育健康アドバイザー、日本フェムテックマイスター協会公認フェムテックマイスター®上級、公認妊活マイスター®Basic、日本スキンケア協会認定スキンケアアドバイザー、メンタル士心理カウンセラー、アーユルヴェーダアドバイザー、快眠セラピスト、安眠インストラクター
<文化・生活>
日本園芸協会認定ローズ・コンシェルジュ、ローズソムリエ®(バラ資格)
<受賞歴>
第74回日本アレルギー学会学術大会「働き方改革推進奨励賞」受賞