「続きはまた明日」─新しい物語が生きる力になるとき
先日放送された大河ドラマ「光る君へ」の終盤が素晴らしい描写でした。
そこでは、人生の終わりに差し掛かった貴人・道長が、最愛の女性まひろによって新しい物語をささやかれながら、静かに息を引き取るシーンが描かれていました。
まひろは、道長に「続きはまた明日」と言い続け、彼が最期まで「明日」を心に留められるように寄り添っていました。
その光景は、多くの視聴者に「理想的な最期」として深く刻まれたようです。
病と不安の中で、未来を見つめるということ
現代の私たちにとって、「終わりを見つめる」ことは決して容易なことではありません。
特に病気や体の不調を抱え、日々の生活が不安や痛みと隣り合わせであるとき、未来に光を見出すことは難しく感じられるかもしれません。
しかし、このドラマが示唆したように、「明日がある」という感覚や、「新しい物語が始まるかもしれない」という期待は、人が生き続けるための大きな支えになるのではないでしょうか。
小さな目標が紡ぐ「新しい物語」
私たち医療者も、日々患者さんと向き合う中で、多くの方が自分なりの「次の一歩」「次の物語」を必要としていることを痛感します。
それは大きな夢でなくても構いません。
「来週、あの友達に会おう」「次の通院日までに、少しでも食事をおいしく食べられるようになりたい」「新しい本を一冊手にとってみよう」といった、ささやかな”未来への種”が、心を前へ向かせてくれることもあるのです。
支え合うことで見出せる「あなたは一人ではない」というメッセージ
また、人の人生は一人きりで完結するものではありません。
ドラマの中で、まひろは決して道長を独りにしませんでした。
弱った手を包み込み、耳元で物語を語り続ける──それは大げさに言えば、「あなたは一人ではない」というメッセージそのものです。
私たちも日常の中で、家族や友人、医療スタッフなど、誰かに心を向け、支え合い、分かち合うことで、「明日へ続く物語」を紡ぎ続けることができるのではないでしょうか。
病気や不安、悩みを抱える方にとって、日々は決して平坦ではありません。
それでも、ほんの少し先にある「続き」を見据えてみませんか。
新しい試み、小さな楽しみ、支えてくれる誰かの声──そのひとつひとつが、人生という物語を続かせてくれる糧になるはずです。
「続きはまた明日」がくれる希望
「続きはまた明日」。
この言葉には、今この瞬間を生き抜く力と、まだ見ぬ光へ手を伸ばす希望が込められています。
あなたの「明日」や「新しい物語」が、健やかさと心の安らぎに満ちたものでありますように。
やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニック 山口裕礼