クリニックだより 内科

ベンラリズマブ(ファセンラ)講演会。医療経済で始まり行動経済で終わった講演会

内科

昨年と比べて大きく前進した講演内容

場所:ホテルニューオータニ

人数:300人~400人だろうか

オープニング

本日の一日の流れが大まかに紹介あり

Session 1. 生物学的製剤の早期導入による医療経済の観点からのメリット

高額な薬を使用することのメリットとデメリットの話。

今までに企業がこのように金額面の事に関して真正面から講演をする機会が無かった。

そのような意味で非常に前向きで意義ある企画。

内容は行動経済学と医療経済学の話

・間接費用について(⇔直接費用)
 罹患のために仕事や余暇活動を行う能力の喪失や減退に伴う費用

 「立場によって興味のある費用項目が異なる」

・合理的経済人と生身の人間の違いについて

・ナッジ理論について
 心理的アプローチで行動変容を起こさせること

・海外の論文紹介
 生物学的製剤は50%の価格抑制が望まれる

・ベンラリズマブ(ファセンラ)の費用対効果が良い論文の紹介
 論文1(論文の質は中)、論文2(論文の質は低)

・まとめ
 生物学的製剤を導入する際の自身の基準を作っておくこと
 患者さんへは生物学的製剤を導入しない事における損を強調する事
 他の医療機関における成功例を見ておくこと
 自分が生物学的製剤を使用し成功例を体験する事


 

Session 2. Precision Medicine for patients with severe asthma

海外の先生の講演で同時通訳あり。

多数の研究データの紹介

・ZONDA PONENTE、BPAP Study・・
 生物学的製剤を使用することにより全身性ステロイドを減量できる
 全身ステロイドにおける副腎不全について

・臨床的寛解について
 生物学的製剤は早く投与した方が良い

休憩 昼食

大変ありがたいことに昼ごはんのお弁当が提供される。

講演に出席することの一つの楽しみは昼食であることは多くの皆さんと変わらない。

今回のお弁当は主催者が頑張って考えて提供をしていただきました。

昨年も多くの演者、聴講共に講演に出席はしているが、いつも同じ会社の同じお弁当だった(8回連続なみ)。

さすがに毎回同じものだと贅沢は言えないが飽きてしまう。

その点今回のお弁当は久しぶりにうれしく思った。

Session 3. パネルディスカッション

好酸球性重症喘息の治療戦略について

まず全身ステロイドを使用するリスクについての解説

その次に聴講者にアンケート形式

質問1 症例が提示され、使用する生物学的製剤について
アンケート結果
1位 ベンラリズマブ
2位 デュプリマブ
3位 メポリズマブ
4位 テゼペルマブ
5位 オマリズマブ

その後、好酸球の多様性についての講義

質問2 好酸球喘息において好酸球を厳格に管理する場合の好酸球数の目安
アンケート結果
1位 100以下
2位 0
3位 50以下
4位 150以下
5位 300以下

座長、演者の意図としては「0」であったため、会場の回答に驚きを隠せなかった様子。

その後症例の提示、メポリズマブとの比較データ、副作用についての話があった。

ベンラリズマブは発売され5年経過しており懸念されるような副作用はないとの事

質問3 質問1と同じ症例が提示され、使用する生物学的製剤について

1位 ベンラリズマブ

講義をしてさらに同じ質問をして刷り込み効果を狙ったもの

いわゆるナッジ理論(心理的アプローチで人の行動を変える)を実践したもの。

個人的感想

昨年も同じような講演があったが散々な講演であったのが記憶にある。

その後1年たってブラッシュアップしたが、もう少しである。

今回の講演においてはベンラリズマブ(ファセンラ)がとても良い薬であることが多く強調されていた。

そのために客観的データや症例を多く出していた。

さらに高額でもあることから医療経済にも一歩踏み込んでいた。

企業主催の講演でもありこのような内容や流れはごく普通の事である。

しかしその中で疑問に思ったことは下記に記載する。

罹患のために仕事や余暇活動を行う能力の喪失や減退に伴う費用

コチラに踏み込んだ内容は興味深い所であるが、それならば、

生物学的製剤を使用することに伴う出費=生活費の減少が生活にもたらす影響

コチラの内容も踏み込んでほしかった。

昨今の物価上昇に伴う家計の圧迫があり、さらに医療費が大きく圧迫することも考えなければならない。

それに伴い仕事や余暇活動を行う能力の喪失や減退をさせてはならない。

今まで患者さんに心理的アプローチまで使用して薬を提案することなどなかったので違和感がある。

多くの医者も同意見かと思うが、自費診療などでは心理的アプローチはあるだろう。

海外の先生における講演は多くの研究データの提示があったが、多すぎた。

座長の先生も夜にでも知恵熱が出そうだと感想を述べていた。

パネルディスカッションについては刷り込み効果を狙ったものでいつもの手法である。

今回の講演を聴講する際には次の点を頭に入れながら今後の医療につなげることが重要である

・妥当性の論理
・プロスペクト理論
・情報の偏り
・フォールス・コンセンサス効果
・創造性の不思議
・機会費用
・問題の客観視
・偽陽性と偽陰性

高価な生物学的製剤については、使用する先生の専門性や経験、スキルによって導入するか否か分かれる薬である。

日常診療のおける基本的な治療や評価がされずに重症喘息とされて導入されている可能性もある。

当院において治療方針に悩む患者さんはは呼吸器・アレルギー専門医の医師2名の意見が一致した場合に生物学的製剤を導入している。

重症喘息だからといって、何でもかんでも生物学的製剤にするのではない。

それ以前にできる事をすべて100%力を出し切ってから使用するものである。