🚄 新幹線で読んだ『こころの処方箋』から考えたこと

〜「人の心はわかるはずがない」〜

📖 本に書かれていたこと

河合隼雄先生は「臨床心理学の専門家なら、人の心がよくわかるのではないか?」とよく言われると書いています。
しかし実際にはその逆で、「人の心などわかるはずがない」と強調しています。

なぜなら、

  • 顔つきを見て「悪い人だ」「やさしそうな人だ」と思っても、それはあくまで一般的な予想にすぎない
  • 本当に心がどう動いているかは、専門家でも決して完全にはわからない
  • だからこそ「決めつけない」「断定しない」ことが大切

と述べています。

さらに例として、不良少年(本では「札付きの非行少年」と表現)がカウンセリングに連れてこられる場面が紹介されています。
一見「救いようがない」と周囲から見放されているような少年でも、

「悪い少年」だと決めつけずに会ってみると、涙を流しながら自分のつらさを語ることがある。

また、彼らの行動の背景には「母親が怖かった」という幼少期の体験が潜んでいることもある、と書かれています。

つまり、専門家の役割は「分析して原因を断定すること」ではなく、まだ見えない可能性に注目し、その子や人の未来を尊重することなのです。

🧠 レッテルを貼ることの危うさ

この考え方を読んでいて、私は臨床現場の出来事を思い出しました。

先日、訪問看護師さんがある高齢の方に簡易検査をした結果「認知症の疑いがあるので先生に確認してください」と言われ、当院を受診されました。

確かに検査結果だけ見れば「疑わしい」と言える部分もありました。
しかし私が診察した印象では「年齢相応の物忘れ」であり、深刻に心配する必要はないと判断しました。

そのうえで、生活習慣を整えるアドバイスをしたところ、患者さんもご家族も安心され、とても喜ばれました。

もし私がここで「認知症の疑いあり、専門病院へ紹介」と判断していたらどうだったでしょうか。
それは形式的には「正解」かもしれませんが、患者さんと家族に不要な不安やレッテルを与えてしまい、笑顔を奪っていたかもしれません。

👀 「人の心はわからない」から始める姿勢

河合先生が伝えているのは、

  • 「わかる」と思った瞬間に、人の心を狭く切り取ってしまう
  • わからないからこそ、未来に向けて関わる余地が生まれる
  • そしてそれこそが「専門家の本当の役割」

ということです。

これは認知症の診断だけでなく、発達障害に対しても同じことが言えます。
「発達障害だ」とラベルを貼られた子どもが、本来持っている可能性や成長の芽を摘まれてしまうこともある。

医師としての役割は、診断やラベルを付けること以上に、本人や家族が希望を持って生きていける道を一緒に探すことだと思います。

🌱 私がクリニックで大切にしていること

私が日々患者さんと接している中で大切にしているのは、

  • 診断名にとらわれない
  • 「この人はこうに違いない」と決めつけない
  • 「これからどう生きていけるか」を一緒に考える

ことです。

その姿勢は、今回の本を読みながら改めて勇気づけられました。

✨ 結びに

『こころの処方箋』の一節は、診断やレッテルの持つ力と危うさを教えてくれます。
医師にとって診断は必要な作業ですが、同時に「希望を失わせないこと」もまた大切な責任です。

私はこれからも「わからないからこそ可能性を信じる」という姿勢で、患者さんと向き合っていきたいと思います。

👤 河合隼雄先生について

河合隼雄先生(1928〜2007)は、日本を代表する臨床心理学者であり、心理療法家です。

  • 日本で初めて本格的に「ユング心理学」を紹介した第一人者
  • 臨床心理士制度の確立に大きく貢献
  • 文化庁長官を務め、日本の教育・文化政策にも影響を与えた
  • 『こころの処方箋』『昔話と日本人の心』『中空構造日本の深層』など、多くの著作を通じて「心理学を一般の人にわかりやすく」伝えた

河合先生の文章は専門用語をできるだけ避け、誰にでも理解できる言葉で「心の深さ」を語っているのが特徴です。
今回紹介した『こころの処方箋』も、その代表的な一冊です。

投稿者プロフィール

院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
院長:山口裕礼(やまぐちひろみち)
からだ整えラボ
資格:
<医学・医療>医学博士、日本呼吸器学会認定呼吸器専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医、日本喘息学会認定喘息専門医、日本内科学会認定内科医、日本喘息学会認定吸入療法エキスパート
<予防医学・代替医療・環境>
環境省 環境人材認定事業 日本環境管理協会認定環境管理士、漢方コーディネーター、内面美容医学財団公認ファスティングカウンセラー、日本セルフメンテナンス協会認定腸内環境管理士、腸内環境解析士、日本温活協会認定温活士、薬膳調整師、管理健康栄養インストラクター、食育健康アドバイザー、日本フェムテックマイスター協会公認フェムテックマイスター®上級、公認妊活マイスター®Basic、日本スキンケア協会認定スキンケアアドバイザー、メンタル士心理カウンセラー、アーユルヴェーダアドバイザー
<文化・生活>
日本園芸協会認定ローズ・コンシェルジュ、ローズソムリエ®(バラ資格)