クリニックだより

どんな時にも人生には意味がある。未来で待っている人や何かがあり、そのために今すべきことが必ずある

自由と幸せ?新型コロナウイルス事情

緊急事態宣言中は多くの家庭や仕事も新型コロナウイルスの影響を受けた。

一番は収入や家計の影響が大きいと思われる。

もうひとつ見えてきた課題がある。

それは何もしない日常が苦痛であるということだ。

新型コロナウイルス前には多くの方にとって仕事が苦痛であり、ストレスを抱えていた。その理由や原因を仕事観も含めて考えてみる。

緊急事態宣言後は日常生活が一変した。

仕事が休みになり家にいるだけ、オンラインで一日家にいる、今まで会社に縛られていたが自由を与えられた、別に何もしなくても良い。

ある意味このような環境は「自由を与えられた」と考えられる。

しかしこのような環境になり、多くの方がストレスになっている。

それは外出制限のみの理由ではないようだ。

”自由であることは耐え難い孤独と痛烈な責任を伴う ”

これは、名著「自由からの逃走」からの一節でドイツの社会心理学、精神分析、哲学の研究者であるエーリヒ・フロムによって書かれた。

意味するところは、自由であるために、孤独を感じるし、自分の下した決断に対しまさしく痛烈な責任も感じること。

また人間は、自由になればなるほど、心の底では耐えがたい“孤独感”や“無力感”に脅かされることになること。

では、それを乗り越えるにはどうしたらよいか、次のように答えている。

”自分自身でものを考えたり、感じたり、話したりすることが重要であること。さらに、何よりも不可欠なのは「自分自身であること」について勇気と強さを持ち、自我を徹底的に肯定することだ” 

すなわち、自由の重みを受け止めるために、自己を作り上げなければならないということだ。

最終的に、悔いを残さず生きるために自分はどうすべきか、改めて考えなければならないことを我々に突き付けられている。

自己を作り上げる、すなわち人間力を高める事を意味している。

多くの方にとってこの人間力の高め方が分からない。

一つの回答として仕事をすることで人間力を高めることだ。

仕事をすることは、様々なメリットがある。

人と接する機会があり、やるべきことがあり、一日のリズムが作られ、給与が得られる。

また、人の幸せは4つといわれている。

誰かに必要とされること、誰かを助けること、誰かに感謝されること、誰かから愛されること。

最初の3つは、働くと得られやすい喜びだ。

しかし、新型コロナウイルスの影響でこのような環境が危ぶまれている。

これからの社会において、少子高齢化、人口減少社会、労働者不足、AI化とデジタル社会だ。

不要な業務が洗い出され、最適な人員規模を知り、必要としない人財があぶり出される。

オンラインが加速すれば受け付け業務は減少する、ロボットが活躍する、会計は機械化される。

今後このような流れが加速すると予測される。

この荒波に飲み込まれないようにしなければならない。

”どんな時にも人生には意味がある。未来で待っている人や何かがあり、そのために今すべきことが必ずある”

この一節は、名著「夜と霧」は精神科医であり脳外科医であったヴィクトール・E・フランクルによって、一九五六年に書かれた。

ユダヤ人であったフランクルのアウシュビッツ強制収容所における過酷な体験からこの本は生まれた。

その中に、生きて収容所を出られた人の特徴について論じられている。

一つの特徴。有名であり多くの書物で引用されているが、それは「沈んでいく夕日があまりに綺麗で感動できる人」だ。

すなわち極度のストレス状態においても心の地盤がしっかりとあったから生き残れたのだ。

最後まで本来の自分を見失わなかったのだ。

では本当の自分、ありのままの自分とは何だろうか?

人や社会のために役になっているという喜びを実感している時だろう。

誰かに必要とされたり、誰かを助けたり、誰かに感謝されたり、誰かから愛されたりしているときに幸せを感じると思われる。

それは自己肯定感を高めることにつながる。

そのような自分はきっと人に対して優しくなれる。

現代社会においては、いじめや自殺、ブラック企業や過労死、格差社会やこどもの貧困などストレス社会だ。

多くの方は社会の常識や周りの目を気にしながら生きている。

「他人がこうだから自分もこうでなきゃ」「他人に合わせないと嫌われる」と思う。

そのような時は、自分を生きているというより、他人の生き方をしているようなものだ。

「他人と自分の区別ができなくなっている」とき、「ありのままの自分」がわからなくなる。

そうすると他人より劣っていると感じ、自己肯定感が低くなる。

いま日本の社会において、子供でも大人でも自己肯定感の低さが問題視されている。

自己肯定感を高めるためには自分の存在価値を他人から認められることが重要である。

そのために、書店で本をとると「世のため、人のために役に立ちましょう」と多く記載されている。

しかし、他人に頑張れば頑張るほど疲れて、壊れていく人がいる。

大事なことは

”自分自身でものを考えたり、感じたり、話したりすることが重要であること。さらに、何よりも不可欠なのは「自分自身であること」について勇気と強さを持ち、自我を徹底的に肯定することだ”

 本当の自分で生きているか。

自分の生き方に関しては、子供時代からの生まれや育てられ方、教育、経験、性格、価値観、今の生活環境など様々な要素がある。

さらにはパーソナリティ障害や共感性障害、承認欲求などが複雑に絡み合ってくる人もいる。

忙しい中では本当の自分を見失いがちだ。

自由な時間があるからこそ、自分が喜びを実感している時はどのような時か考えてみたい。

あらためて新たな社会生活といわれると、ともすれば社会がギスギスしてしまう。

まずは、「笑顔」「挨拶」「感謝をする」このようなことは、精神面でも非常に大切なのではないかと思う。

”「遊ぼう」っていうと 「遊ぼう」っていう”こだまでしょうか 

ー 金子みすゞ。矢崎節夫(金子みすゞ記念館館長)は語る、よいことも悪いことも、投げ掛けられた言葉や思いに反応するのは「こだま」だけではなく、万人の心がそうだとみすゞは言っているのです。

こだまというのは、山から投げ掛けた言葉がそのまま返ってくるわけですから、大自然の懐に包まれたような安心感を生み出し、私たちの心を優しくしてくれるのです。

この詩に触れ、心の内で何度もこだましているうちに、どこか優しくなれた自分を見つけることができたのでしょう。ー

早くコロナ禍が収束し、多くの方が仕事を失わず幸せに働ける環境が来る日を願うばかりです。

やまぐち呼吸器内科・皮膚科クリニック 山口裕礼